「この世界の片隅に」は今年No.1かもしれない
観た人みんな「よかった」「よかった」と口を揃える映画、
「この世界の片隅に」を観てきました。
はい、よかったです。号泣というよりは、心の底からじんわりとこみ上がる深い感動でした。戦時中の昭和19年、18歳で広島から呉にお嫁にやってきたすずさん。モノは無いし、空襲はどんどん来るけれど、当時の人々の日常を淡々と綴りながらストーリーは進んでいきます。
よかったところ
①音楽がいい
「君の名は。」もそうだったのですが、グッとくる場面で流れる音楽に心を打たれました。序盤、タイトルが流れる場面で流れてくるのはコトリンゴさんの「悲しくてやりきれない」。ゆったりとした曲調に、のんびりした気持ちになりますが、歌詞は切ない。ああ、この当時は文字通り、泣いても嘆いてもどうにもならない、誰のせいにもできなくて、やりきれないことがたくさんあったのだろうなと思いを馳せます。
②すずさんがかわいい
主人公のすずさんがもう可愛すぎる。ぼけっとしているけれど、穏やかで、みんなに大切にされているから、擦れてない。失敗しても、「ありゃ〜」って顔をしてのほほんとしているのもいい。すずさんの声を演じたのは、能年玲奈あらため「のん」さん。彼女の声がすずさんと一体化していて、素人っぽさもまたよいのです。
そしてすずさんの特技は絵を描くこと。彼女が描いた絵がそのまま動き出したりして、ちょっとファンタジーっぽい演出も素敵でした。彼女が絵を描き続けることも、この話の重要ポイントなんですよね。
③生活の描写がいい
戦況が悪くなるにつれて、食べ物の配給が少なくなったり、着るものにも困るようになっていきますが、すずさんたち家族に悲壮感はありません。摘んできた雑草をいろんな料理に入れてアレンジしたり、着物を裁断して上着とモンペに作り替えたり。しんどいことに目を向けて、下を向いていても状況は変わらない。どうせなら楽しく過ごすほうがよっぽどいい。すずさんがドジを踏むシーンでは会場から笑い声が。かつての戦争映画で笑い声が起きたことはあっただろうか。
④すずさんの夫・周作
この夫……もう出来すぎる……。周作の希望で、広島から離れた呉へと嫁入りすることになったすずさん。彼がたった一人嫁いできてくれたすずさんのことをどれだけ大切にしているか。それがもう伝わりすぎてつらい。後半、すずさんものほほんとしていられない出来事が続いて、とうとう「広島に帰る!」といっても、彼は彼女を責めない。
あとは随所随所に出てくる夫婦のシーン。直接的な描写は無いけれど、なんというか妙に感じるなまめかしさも、リアルです。
戦争映画というと、重々しくて重厚で、観終わった後はズーンと落ちて、しばらくどんよりしてしまうことが多かったです。けれど「この世界の片隅に」はその「ズーン」とはまた違った感情で、しばらくぼーっとしてしまいました。
戦争はこんなに悪いことなんだ、ということを伝えたかったのもあると思う。けれどそれは後からついてくるもので。あの当時を生きていた人たちは、戦争がよいとか悪いとかそんなことを考えるよりも、とにかく生きることに精一杯だったのだろうと、これが本来の姿だったのだろうと思うのです。
「この世界の片隅に」で頭がいっぱいになった私は、映画を観た翌日に、原作の漫画も上中下巻読破しました。省かれている描写は少々あるけれど、かなり原作に近いように思いました。映画は映画で素晴らしいし、漫画もまた素晴らしい。監督に「なんとしても映画にしたい」と思わせるほどの力が原作にあったのですね。
よい作品をみると、あたたかいものを食べたときのように、芯からぽかぽかしたよい気分になりますね。
「この世界の片隅に」は細かいポイントがいくつも散りばめられているうえに展開も早いので、できればもう一度見に行きたいです。